私は以前、外資系のIT企業に勤めていました。
その会社に入社すると、営業職と営業技術職は全員一度本社のある西海岸のシリコンバレーに集められ、2週間朝から晩まで近郊のホテルに缶詰状態で研修を受けることになります。
私がその研修を受けた時、日本からは同時期入社の4人の新人と一緒でした。
ただし、彼らはまったくと言って良いほど英語がしゃべれません。
アメリカを含め、世界各国から集められた総勢100名ほどの新入社員がアメリカで研修を受ける訳ですから、もちろん言語は英語です。
そして、喋れようが喋れまいが、新入社員達はその研修終了後に試験を受け、合格したらそれぞれの配属先に戻り、仕事ができるようになるのです。
日本の企業研修などでは、研修所にホワイトボードを背にした講師がいて、受講者達は彼が話す内容を黙々と聞きメモをとるなど、例外はあれど多くの場合一方通行で知識の提供を受けます。
しかし、アメリカでは企業研修に限らず、学校などでも双方向のコミュニケーションで授業を進めます。
例えば、講師が「投資家が市場で円を大量に購入すると、円は?」と聞き、誰もがその答えを分かっていても、一人の生徒を指して、「高くなる」と答えさせます。
その会社の研修も同様で、もし自分が差されたら、立ち上がってサッと答えなければなりません。
研修に参加した日本人は全員、いつ自分の番が回ってくるかハラハラしていたと思います。
もし指されたら、「アー」とか「ウー」とか言いながらアホになったふりをしていると、講師は諦めて次の人を指名する場合もあります。
そして、まれに異変が起きることがあるのですが、一緒に研修を受けた一人の日本人はある意味勇敢でした。
質問はある顧客の満足度を上げるにはどうしたら良いかという類いのもので、大まかな質問内容は投影されていたスライドの絵で認識していたようです。
そして、指された彼は言ったのです。
「それは、寿司のようなものだ。」
当時は西海岸でも寿司が大変人気になっていた時期ではありましたが、「おいおい、ここで寿司の話かい?」という雰囲気で周りは反応しました。
「寿司屋はおいしくなければ顧客は増えない。だから、おいしい寿司を準備すれば良い。」と質問には外したトンチンカンな話で締めくくりました。
ジョークと受け取ってよいのか迷っている受講生の笑い声と一旦そこだけ一休みのような時間で、彼はその場をしのぐことができました。
あとから何人かが私のところへ来て、あの日本人は君の友達かと聞かれた時には少し恥ずかしい思いをしました。
研修の2週間は受講者全員、ホテルのレストランで用意された朝食と昼食を時間内にいただくことになっていました。
NFLプレイヤーも常宿にしているようでしたので、ある程度格式のあるホテルで、食事は制服を着たウェイターやウエイトレスによって運ばれてきます。
そして、朝食時に日本人のテーブルにウェイターが近寄り、お皿が空になった一人に「Are you done?」とたずねました。
「done」は「do」の受身形ですので、「終わられましたか?」となります。
更にウェイターは言葉の最後に男性への敬称「Sir」を付けて聞いたのです。
Are you done, sir?
そうすると、その日本人は席から飛び上がり、目をむいて両手を左右に振りながら「ノー、ノー」と訴え始めました。
そして、言い放ったのです、「アイアム ノット ダンサー」と。
不謹慎ながら、それを聞いた時、私は大声で笑ってしまいました。
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